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●レポーター:奈良市在住 梅沢はなさん
「周りからはなかなかわかってもらえないんですけどね・・・」
少しはにかみながら笑顔で話す大西さん。
授業の後半から、気功にはまっていると言って、腰が疲れない立ち方まで披露してくれ、スタッフは写真を撮りながら「これは何の授業なんでしょう?」と言って、周りを笑わせた。
そんな「周りからはなかなかわかってもらえない」ことを、「蜂だって自分で家を作ることにすごく感動して」などと、独自の感性で、自分の言葉で、自分でカフェをひとつずつ手作りしてきた思いを話してくれた。
大西さんの雰囲気が、どことなく禅のお坊さんのようかも?と思っていた謎は、その気功の立ち技の話でわかった。
気功は、飲食業界では大概の人が立ち仕事ゆえに痛めてしまう腰を痛めずに、どうやって健康な体を保つか、お客さんに失礼のないよう自分が最善の状態でサービスを提供するために、健康であるために、大西さんなりに編み出した方法だった。
私は、大西さんの言葉ひとつひとつが、カフェを自分で1から自分なりにつくってきた大西さんの、他の借り物でないということを感じた。
カフェ作りは、素人から始めたという大西さん。
開業する前に2年間飲食店で働いてきたというが、業界のなかでは「ほぼ経験はない」という。
私は、カフェを始めるといえば、調理の技術から接客、さまざまなハウツーが必要で、修行を経てやっと開業するものなのかなと思っていたが、大西さんの話を聞いていると、どうもそうではないらしい。
お店で出しているベーグルの元となるパンも、カフェをやってから初めて作り、最初はカチコチの石のようなパンを焼いてしまっていたらしい。
大西さんのカフェ開業とその後のよもやま話は、少々びっくりした。
だが、そんな私に大西さんは、前述の蜂の話を交えて、
「蜂だって家を作るでしょう?人間だって作れないわけじゃない」
と、3年半かかりながらも古民家の修復を進め、その後も1からパン作り、お菓子作り、カレー作りなど、ご自分のレシピでメニューを開発していった。
大西さんがカフェを始めるにあたってあったのは、そういった技術や経験(2年という飲食業界の労働があるものの)ではなく、お客さんに「美味しい」と言ってもらって嬉しい!という思い。
その思いを原体験に、カフェを1から文字どおり手作りし、その手間こそが「やりがい」と、売り上げや儲けには代えられない、働くことの本質的な部分を大事にされているようだ。
「一期一会の出会いを大事に、おもてなしをしていきたい」
と話す大西さんの日々の思いが、この授業の瞬間にも伝わってきた。
きっとそういう思いを日々持ち続けることで、いつ来るかわからないお客さんに最善の提供ができるのでないかと思った。
日々の精進の成果は、いきなり訪れる出会いに如実に現れ、そのときにできる最善の時間をお客さんと共有できるのだと思う。
そういった意味での「人間力」が、かけがえのない一期一会を生み出してくれるのだと思った。