奈良団扇の日常性

●レポーター:東大阪市在住 Yukinoさん

奈良をモチーフにした繊細な透かし彫り模様と鮮やかな色彩の対比が好きで、いつかひとつは欲しいと憧れていたのですが、私が伝統工芸を買うなんて色々な意味で敷居が高いと手が出せなかった奈良団扇を作っていらっしゃる池田含香堂の当主さんにお話を伺える機会とのことだったので、奈良ひとまち大学の講義に参加させていただきました。

全2時間の講義の前半は、やすらぎの道沿いにあるSAVAS Cafeさんにて、程よい甘さで優しい味の生クリームと色鮮やかなたくさんのフルーツが華やかに盛り付けられたシフォンケーキと飲み物を堪能しつつ、ご準備いただいたプリントやパネル、団扇の材料となる和紙や竹骨などを見せていただきながら、当主さんにお話を伺いました。

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奈良団扇の歴史に始まり、制作工程、日常生活において使いやすいように配慮した創意工夫と高い技術に基づいて作られていることの説明、事業継承の危機があってご苦労なされた頃のお話、課題と今後の展望など、多くのお話を伺うことができました。

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お話のなかで特に驚いたのは、奈良団扇は日常品として使いやすいように徹底的に配慮して作られている、という点。
実際に奈良団扇と企業やイベントの宣伝としてよく配られるプラスチック骨の量産型団扇の両方を手にとって比べさせていただいたのですが、全然違いました。
持ち手が平らな板状で和紙を貼る骨の一本一本が太くて本数の少ないプラスチック団扇に対して、奈良団扇の持ち手は丸棒で、しかも和紙を貼る竹骨の一本一本がとても細くて本数が多い分、手に馴染みやすいと共にしなやかなので、より少ない力で仰ぐことができました。
この細い竹骨を作れるほどの高い技術を持った職人さんは、今はほとんどいないそうです。
奈良団扇は飾って眺めるための伝統工芸品だと思い込んでいたので、日常品としてここまで配慮され丁寧に作られているとは、本当に初めて知りました。

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講義後半は、三条通にある池田含香堂さんにお邪魔して、手前の店舗だけでなく、奥の作業場で作業工程の一部を実演していただきました。

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突き彫りという技術で実際に模様を掘る様子は真剣そのもので、手元に魅入られてしまいました。
刃物を突き立てていく手はもちろんですが、和紙を重ねた束を抑える側の手の指の曲線と力強さがまた見事でした。

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本来は作業時期が終わっていたようですが、当主さんのお母様に和紙への色付けの工程も見せていただくことができました。
専用の刷毛で、目にも鮮やかな赤を素早くもムラなく和紙に塗っていく手元の滑らかさが印象的でした。
和紙を染める時期には、色とりどりの和紙が天井に干されている光景が、作業場手前にある店舗からも垣間見えるそうです。
加えて、人数や時期等は要相談ですが、制作体験講座のようなものも開催していらっしゃるようです。

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講義終了後、今の当主さんのご先祖の方々の作品や販売店舗をご説明いただきながら眺めていたら、やっぱり今日こそ買って帰ろう、というか、この機会を逃したらまた買えないままかも、と思い、ついに、緻密な天平模様と赤と紫の色彩のコントラストが綺麗で一目惚れした奈良団扇を、念願かなって購入しました。

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当主さんのお祖母様が手際良く団扇の和紙部分をお店の名前の入った紙で包んでくださるのを見ながら、一人ご満悦状態でした。

その後、私が奈良団扇を欲しいと思うきっかけになった奈良市内のお店でご飯を食べながら、店の女将さんや近くにいたお客さんに買った団扇を披露して自慢しながら皆で雑談。
「価格の高低ばかりにこだわるんじゃなくて、丁寧に作られた物を適正な価格で買ってちゃんと使っていくことは大事だよね。」
というような話をしていた筈だったのですが、1人が突然、
「そういえば、奈良団扇って、どっちが裏なんだろうね?」
と言い出したので、とっさに、
「え!?うーん、柄にお店の印章シールが貼ってある方じゃないの?」
と思ったのですが、透かしのために同じ模様の和紙を貼り付けているから、裏とか表とか、実際にはないんでしょうか。

・・・まあ、裏表論争はともかく、今年の夏は、エアコンの温度を少し上げて、奈良団扇で涼を取りたいと思います。