奈良ひとまち大学

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香、満ちました―

●レポーター:桜井市在住 たき さん

今回の授業は、法相宗大本山の薬師寺さん!の、普段非公開の慈恩殿という建物にて日本三大芸道の一つである「香道」を学びました。

香、満ちました_1

香道・・・申し込んではみたものの、茶道みたいに難しいお作法があったらどうしよう。
はたまた、華道みたいにその場でセンスを問われたら・・・と内心ひやひや待機すること数分。
お着物姿の先生方がお出ましになり、いよいよお香の授業スタートです。

香、満ちました_2

初めは実際の香木を皆で拝見しつつ、お香の歴史や流派について教わりました。
その昔、香木は佛教と共に日本にもたらされ、香華燈明と称されるように佛様へのお供えとして用いられていました。
そして、それは時代が下るにつれ、貴族階級の日常生活の中にも取り入れられるようになり、平安時代には様々な香料を調合して練り合わせた練香(薫物-たきもの-)が生まれます。
しかし、鎌倉時代になるとこれが一変。
香りを複雑に組み合わせた練香よりも、香木そのものの香りを愉しむ趣向が好まれるようになります。
現在の香道が誕生したのは室町時代からだそうで、意外だったのは線香が江戸時代生まれということです。

香、満ちました_3

と、お香について薄らぼんやりわかったところで、いよいよ実践、香席が始まります。

今回は2種以上の香を焚いてその香りの異同を判別する組香という遊びの中から、源氏香を体験しました。
この源氏香は5種類の香を順番に聞き、どれとどれが同じ香であるのかを当てていきます。
その際、順に回ってきた香同士の異同関係を図形で示すのですが、なんとその数52種!
それぞれを源氏物語の54帖のうち、巻頭の「桐壷」と巻末の「夢の浮橋」をのぞいた52帖にあてはめていきます。
ちなみに香は嗅ぐとは言わず、心で味わい体験する意を込めて「聞く」と言うそうです。

香、満ちました_4

まずは、各々に渡された回答用紙に5本の縦線を書き、右から1番目、2番目、3番目・・・とします。
そして、同じ香りがあれば横線でつないでいきます。
例えば、1番目と2番目が同じ香りなら、右から1本目と2本目の縦線の上を横線でつなぎ、「空蝉」。
1番目と5番目、2番目と4番目が同じなら「真木柱」となります。
それぞれの図形には意味や由来があるそうですが、それはさておき。
今回は体験ということもあり、一巡のみで勝者、すなわち「玉」を決めましたが、正式には5巡して点数の高さを競います。

香、満ちました_11

で、1番目の香。
香を焚きだす香元からまわってきた香炉を左手に持ち、灰に刻まれた聞筋が手前にくるようにします。
そして、右手は香炉に蓋をするようにおき、親指と人差し指の隙間から3度香りを聞きます。
が、緊張しすぎて私は4度聞いていました・・・。

香、満ちました_5

普段いかに香りに注意を払わずに生きているのかをひしひしと感じながら2番目の香を待ち、3番目、4番目と聞いていきますが、だんだんとお寺や手に残った香りに惑わされるような感覚に陥り、存外難しい。
あと、香りを覚えていられない・・・。

香、満ちました_10

5番目まで聞きおわると無事に聞香終了。
悩みながら自身の答えに該当する源氏香の図を探し、回答提出。
集められた用紙は香元の左隣りにいる執筆という香席の記録係に集められ、香記という香席の議事録みたいなものに名前と選んだ答えが書き連ねられます。
この香記にはその日に使ったお香の名や和歌も書かれており、得点が一番高かった人に贈られます。

香、満ちました_12

同率の場合は席が上座の人がもらえるシステムのため、香席は香元の右隣りに近い席がおススメということを知りました。
一番の上座にいても茶道のように正客の作法があるわけではないので、初めてでも安心して香道に参加できます。

聞香が終わり、答え合わせも終わると、いよいよ結果発表です。
私は3番目と4番目が同じだと思い「明石」を選びましたが、結果は「若菜」で1番目と2番目も同じ香でした。

香、満ちました_8

お、おしい・・・。
先生方がさらさらさらっとしたためた香記を一同まわし見し、ひと段落すると香元が一言。

「香、満ちました」と。

なんてすてきな言葉!
これは香席の終了の合図なのですが、きっと参加された皆さんもそう思われたはず。
組香に集中している間、気が付けば空間も身体も、そして心も香りに満たされました。

香、満ちました_7

香道は香木の入手の都合上、なかなかお目にかかる機会がありません。
しかし、そこはさすが古都・奈良。
シルクロードの終着点だったからこそ!?学ぶことができた素敵な授業でした。
そんなシルクロードといえば、今年の正倉院展 in 東京国立博物館にて、織田信長も切り取ったといわれるあの東大寺(蘭奢待)が出陳されるとのことで、今から大変楽しみです。
嗚呼、こんな気持ちが生まれたのも実際に香道を体験したからこそかと思うと、むふふっ、奈良の引き出しが一つ増えた気がして嬉しいです。
素敵な経験ができた一日でした。

奈良はいいところです。