詳細
●レポーター:奈良市在住 ちひろ さん
「近代建築シリーズ、南都銀行」に参加しました。
奈良県の銀行と言えば?
真っ先に挙がるでしょう、南都銀行。
私個人も職場もお世話になっています。
東向商店街を進むと一際存在感を放つ洋風建築で、いかにも歴史を感じる佇まい。
内部を見学できると聞いて楽しみにしていました。
そして、期待以上の素晴らしい建物で貴重な体験をさせて頂き、充実した時間を過ごすことが出来ました。
先生は南都銀行のシニアスタッフ鉄田さん。
長年銀行に勤務されており、時折ユーモアを織り交ぜながら解説してくださいました。
今回で3回目の授業とのことですが、毎回100人以上の申し込みがあるとか!
実は私も過去落選しており今回ようやく参加出来ました。
最初に座学で銀行の歴史や建築について解説頂き、次に行内見学という流れでした。
南都銀行は86年前に県下の4行が合併して誕生したそうで、長い歴史にまずびっくり。
「南都」の名は「南都北嶺」が由来だそうです。
意味は興福寺を中心とした奈良のお寺と比叡山延暦寺。
確か9世紀に誕生した言葉で奈良の歴史を感じる名称です。
本店は大正15年竣工。
登録有形文化財に指定されています。
「正面に4本のイオニア式の列柱を並べ細部に装飾を施す外観は、古典様式を簡潔にまとめた好例」(文化遺産オンライン)
昭和28年に背後に増築したそうです。
当時は六十八銀行(本店は大和郡山)の奈良支店として建てられたそうですが、当時このような洋風建築を見た人々はどんなに驚いただろう?と想像せずにいられません。
奈良博はもうあったはずですが、それでもギリシャ風の重厚な立柱とレンガの外装、古都に建つには相当なインパクトだったのではないでしょうか。
建築家は長野宇平次氏。
奈良ホテルの設計者でもある辰野金吾氏のお弟子さんで、旧奈良県庁舎も設計されたそうです。
名高い建築家の起用に銀行さんの並々ならぬ意気込みを感じます。
さて建築で一等目を引くのは柱に施された羊と花つなの装飾です。
彫刻家は水谷鉄也氏。
一刀彫の名匠森社園の最後のお弟子さんだったそうです。
水谷氏と長野氏が共にこの建築を手掛けることになった経緯は偶然の出会いからで、人生とはどこにチャンスがあるか分からないものだなと興味深かったです。
彫刻には以前から疑問がありました。
なぜ「羊」なのか?奈良なら鹿じゃないの?なんて。
理由は不明だそうですが、鉄田さん曰く、ヨーロッパで羊は多産であり「富と繁栄の象徴」だから、その引用ではないかということでした。
お話を伺ってから実際に眺めてみると、改めて羊の凛々しくも気品を感じる表情や豪華な装飾が建物自体に荘厳さを纏わせる役割を存分に発揮していると感じました。
顧客として来訪するのも誇らしくなるような場所だったのではないでしょうか。
次の行内見学、ハイライトは2つありました。
まず1階フロアが見渡せる通路を通らせてもらったことです。
銀行窓口で待ちながら気になっていた部分に2階から入らせて頂きました。
足元を見下ろすと広大な空間で実務現場がまるっと見えて、思わず感嘆の声を上げてしまいました。
お客様の金銭を扱う非常に大事な場所だと考えるとこちらもピリッと背筋が伸びる思いでした。
2つ目は屋上からの眺望です。
屋上に登れるとは予想外で嬉しい驚きでした。
7階建てで周囲に遮るものがほぼありません。
好天に恵まれ眼下に素晴らしい風景を見ることが出来ました。
夕焼けに染まる興福寺・東大寺・若草山、西側には生駒山、南側にも広がる奈良盆地、高層ビルが無いからこそ遠くまで見渡せる私の大好きな奈良の風景です。
職場にこんな場所があるなんて贅沢。
行員さんが羨ましくなります。
行内見学では他にも耐震工事のために窓を固めていること、長野氏特有の階段設計、昔の入口は今とは異なる場所だったことなどを伺い、建築物にも歴史があり、現代でも職場として活用されているのは保存と継承の努力の賜物で素晴らしいなと感じました。
これからも街のランドマークとして、奈良の街や人とともに歴史を歩んで頂ければと思います。
貴重な機会をありがとうございました。