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●レポーター:奈良市在勤 はちこ さん
外は雨がしとしとと降る日でした。
色とりどりの人工浮遊体が自由に浮かぶ水槽がいくつもあったり、首から上が大きな電球でできている人形がデスクワークをしていたり。そんな不思議なギャラリーの中、穏やかな雰囲気で今回の授業は始まりました。
先生は、奥田エイメイさん。
電機メーカーの研究所でお勤めされていた時に人工筋肉の研究をされ、退社後にJR奈良駅付近で飲食店兼ギャラリーを経営、現在は人工筋肉の構想を基に「人工浮遊体」の制作をされています。
「人工浮遊体」は主に病院やオフィスに納入されることが多いらしく、クライアントからは「”癒し系”ですね」と言われることが少なくないのだそうです。そこで奥田先生は、ふと「”癒し”とは何だろうか」と疑問に思われました。
「いやし」は「あやし」に似ているな・・・・
考え込む入り口で、奥田先生はご自分が元々”癒し”を作りたかったのではなく、本来は”あやしい”ものを作りたかったのだということに気づいたのだとおっしゃいました。
そのように、奥田先生は常に思考のアンテナを張り巡らせて模索されていらっしゃる印象を受けました。それは「言葉」からであったり、「漢字の形状」からであったり、脳裏に閃いた印象を丁寧に追っていくことで、新しい作品の制作へとつなげていらっしゃるようでした。
「今、していることの意味とはなんなのか」。制作をしながら、思考を文字化し、考察する作業を大切にしているとも語られていました。言葉はどこへでもジャンプできるところが良い。それまで考えていなかった場所へも飛んでいける。そのように語られていたことが印象的でした。
企業に勤めておられた頃から制作されている内容や物は変化していっているが、「物を作ること・考えることは続ける」ことを心に決めてこられたという奥田先生は、創作をする過程には必ず「数値化」することが大切なのだと語られました。若い芸術家が陥りがちな「感覚―ニュアンス―で創作」していると、自分の内だけにしか響かず、作品はそれ以上拡がってはいかない。しかし、どのような組み合わせ、どのような比率で混ぜあわせることで、その色が形成されるのかなど、作業を論理づけし、数値化したり言語化していくことで、感覚が研ぎ澄まされ新たな創作へと繋がるのだと語られました。
確かにそのとおりで、感覚だけで制作をしていくと行き詰まったり、よくいう「スランプ」に嵌りがちですが、数値化され理由付けされたものは揺らぐことがないので、そのような場合になっても制作を続けていくエネルギーに繋がるのだと気づきました。
次に、第2部として少し柔らかな雰囲気のなかで、奥田先生を囲んで質問会が開かれました。
以前に奥田先生が経営されていたカフェへ訪れたことがある方の質問から、当時のエピソードをお伺いしたり、以前に山登りをされていた時に学ばれたことなどを語っていただき、学生のなかにも笑顔が生まれていました。
奥田先生の講義を聴き、常にアンテナを張ること、周囲に鈍感にならないことの大切さを学びました。
ありがとうございました。