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●レポーター:奈良市在住 ピリカラ さん
第17回目の授業であった今回、初めて奈良ひとまち大学の授業に参加させていただきました。
先生は、仏像ブームといわれるなか、その象徴的な存在である興福寺の阿修羅さまをはじめとし、数多くの仏像を全国各地の展覧会会場にお連れした美術品輸送のエキスパート、海老名和明さん。明治期の息吹が感じられる重要文化財の奈良女子大学記念館での先生のお話は、その一言一言に仕事に対する想いや普段のお人柄がにじみ出ていて、とても感銘を受けました。
小さな失敗すら絶対に許されない仏像の輸送。
3m以上ある唐招提寺のご本尊・盧舎那仏さまを東京国立博物館まで20時間もかけてトレーラーで輸送されたときの困難さ、梱包などで衝撃を和らげるための技術や創意工夫、一つひとつの作業を落ち着いて緻密にこなしていく様子など、すごいなぁ・なるほどなぁと感じることがたくさん。
5年間もかけて輸送のシミュレーションを行い、着々と準備をされてきたこと。
輸送現場での作業は全体の仕事のうちの2割程度で、任された仕事の成否は準備段階で8割方決まってしまうこと。
展覧会が終われば、関係者にすらあまり関心を持たれることなく、できるだけ早くかつ確実に撤去しなければならない現実。
信頼され仏像を任せてもらうため、所有者の方の納得がいくまでとことん話すこと。
強い精神力と集中力、豊かな知識と発想力、そして経験が必要なプロの仕事だということが分かりました。
なかでも印象的なお話だったのが、仕事をするうえでもっとも重要なことは「ひと」で、同時にもっとも困難であるのも「ひと」だ、ということ。
「輸送の仕事は黒子であり、チームプレイ。成功を続けていくためには人材が最も重要な資産」と話す海老名さんによると、これまで担当された仏像の輸送は全て成功してきたとのこと。輸送方法や技術は仏像の材質や大きさなどに応じて毎回異なり、経験を積みかさねないと対応できないため、積極的に若手職員に参画してもらい、実際の仕事を通じて学んでもらうように心がけておられるようで、参加されている職員の方がとてもうらやましく感じました。
一方で、仕事を進める上でもっとも困難を伴うことが、意外というか、輸送方法などについて関係する人々の意見をまとめること。現場では、輸送担当以外の人の意見に惑わされず、任された仕事を決まった計画どおりに着実にこなすことが成功の秘訣なのだとか。口調こそ柔らかいものの、強い意思と熱い想いをもった方だと思いました。
そんな海老名さんの口から、授業の最後に、「奈良はとても素晴らしい。天平時代の素晴らしさばかりがよく言われるが、平安・鎌倉・近世、そして現在まで脈々と受け継がれ守られてきている。それぞれの時代にも目を向けてほしい」との言葉がありました。奈良で暮らす身として、心に留めておかなければと思いました。
笑いが絶えない授業のなか、海老名さんの言葉の端々に、ひとへ思いやり、仕事への想いやビジョン、輸送する仏像への愛、仲間への感謝などがいっぱい詰まっているように感じました。
今回の授業に参加できて、魅力的なひとに出会え、あらためて奈良の魅力を身近に感じられて、本当によかったと思い感謝しています。