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●レポーター:奈良市在住 吟 さん
私は今回初めて奈良ひとまち大学に参加しました。
先生の奥田エイメイ氏は浮遊体アートの作家ということで、市内の大学で美術教育を学んでいる私にとって非常に興味深いお話でした。
奥田氏の制作される浮遊体アートとは樹脂製の人工クラゲのことで、大手企業に勤め人工筋肉の研究を重ねる中で偶然発見したものでした。
この出会いで研究者としての人生を歩んでいた奥田氏に表現者としてのアイデンティティーが生まれるきっかけになりました。
会社を退職しギャラリーを設け、カフェ&バーとして運営するため美大生の協力を仰ぎ、オシャレな空間デザインを施します。
ギャラリーでは自身の作品を展示するだけでなく、美大生の作品の展示や演奏会を開くといったイベントが定期的に催されるようになり、少しずつ作家としての活動を始めます。
その後、浮遊体アートの注文が入るようになり作家としての活動が軌道に乗り始めます。
ときにはリーマンショックで打撃を受けるも、活動を粘り強く続けます。
活動を続ける中で、回収され動かなくなったクラゲを前に複雑な思いを抱え、取引先から言われた「偽物のクラゲを売っている人でしょ」という言葉に悩みます。
偽物と言っても目の前の浮遊体アートはホンモノと同じように生きており、自分の手で作り上げたものが偽物と言われることにモヤモヤとしたものを感じます。
葛藤を受けてか、奥田氏は動かなくなったクラゲを弔うような作品を制作します。
透明なガラスにクラゲを貼り付け、照明を照らすと光が形を映し出して、クラゲが元気に動いていた頃を思わせます。
私はこの作品を通してクラゲを弔うための儀式を行っているのだと解釈しました。
そこから、奥田氏が自らの作品をホンモノだと認識していることに気づきました。
作品を制作・販売する中で、浮遊体アートに対する死生観や認識を深めていく姿が、作家としての奥田エイメイ氏の魅力だと考えます。
それを踏まえた上で、奥田氏の作品がどのように変容を遂げていくのか楽しみにしたいと思います。