●レポーター:奈良市在住 じゃがじゃが さん
今回の授業の先生、オーストラリア出身のユージンさんは世界で活躍する建築家さん。
オーストラリアやイギリスなどでホテルやオフィスの設計・施工を手掛け、日本では隈研吾建築都市設計事務所で働いた経験や、世界的な建築やアートのコンテスト受賞歴もある方です。
現在、尼ヶ辻駅・垂仁天皇陵の近くの古民家を改装した「スペースデパートメント」にアトリエ(オフィス)を構えておられ、ここでの取り組みがアーティスト・イン・レジデンスです。
私はこの概念は知らず、アーティストのためのシェアハウスのようなものをイメージして伺いました。
フライヤーには、「国内外のアーティストが滞在しながら、『空間』をテーマにコラボレーションし、リサーチし、アイデアを創造し、共有し、多様な方法で表現していくクリエイティブスペースです」とあります。
ユージンさんの建築の経験のプレゼンテーションの中で面白かったのは、一貫して(世界のどこでも、経歴の初めの方から最近に至るまでも)、自然の素材を建築に生かして取り入れている点。
初期の建築作品では、建物の建てられた土地の石をそのままエクステリアに使用していたり、断熱のために屋根にその土地の土を盛ったり、その土地の土からできた煉瓦を使ったり。
実現しなかったプロジェクトの中には、公園の中に虫が住める構造物を作ることで、都市に生態系の循環システムを蘇らせるアイデアもあったそうです。
また、数日の会期でその役目を終えてしまうインスタレーションですが、同時期に行っていた飲食のイベントの人とコラボして、野菜の芽が出た部分やヘタなどの食材の廃棄部分をあしらうことでサステイナビリティのエッセンスを加えた展示もあったそうです。
奈良でのインスタレーション作品で有名なのは、2018年のならまち遊歩の企画展示「ならまちプロジェクション」で、奈良晒(さらし)のスクリーンに奈良の夕暮れやならまちの人々などのシーンを映し出すもの。
奈良に昔から在住の人にとっては何でもない日常生活の風景も、異文化のフィルタを通すとどこか懐かしく美しいものにも見えるのかもしれません。
2階建てのスペースデパートメントの中も見学させていただきました。
全て自分の手で改築を行ったそうですが、壁紙を剥がした際に下の層に現れた昔の新聞紙をそのまま壁に残したり、昔の家なので天井は低いのですが、もとの天井を外して蛇腹に木を組んで高さを出し圧迫感をなくす工夫をしていたり、アーティストらしく、白い壁をペンキと漆喰で塗り分けたり、昔ながらのガラス戸に彩色してステンドグラスのようにしたり。
アイデアが詰まった素敵な作りになっていました。
予備知識ゼロで拝見したプレゼンテーションと、実際の「作品」でもあるスペースデパートメントの見学から、アートは人の中にあり、自然の中にあり、哲学でもあるのだなあという感想を持ちました。
そして、「良くも悪くも変わらないのが奈良」というユージンさんの言葉が印象的でした。
古いものを大事にしつつも、違う視点から眺め、新しいものを取り入れ融合させて、新たな生命を吹き込み、後世に残してゆくことも奈良にとっては大事なのではと感じました。
アーティスト・イン・レジデンスが、そんな文化・新旧のケミストリーの場として、奈良にある意義は大きいと思います。