ヤトガ、聞きなれないそれは、モンゴルの弦楽器。
今回は、そのヤトガの演奏を聴きにいってきました。
演奏してくれるのは、日本人唯一のヤトガ奏者という中西史子先生。
当日の中西先生は、モンゴルの民族衣装を舞台用にアレンジしたという煌びやかな金色の衣装で登場されました。

演奏の前に、写真集を見ながら、まずモンゴルについてのお話を伺います。
モンゴルといえば、砂漠・草原・遊牧のイメージです。
彼らは、ラクダ・ウマ・ウシ・ヒツジ・ヤギの5種類の家畜と一緒に、ゲル(パオ)で生活をしているそうです。
一方、そんな遊牧の生活とは違って、首都ウランバートルの生活は非常に近代的だそうです。
ウランバートルの写真はとても都会的で、私たちの想像するモンゴルとは違った側面をみせてくれました。
そして、とうとうヤトガの話に移ります。
ヤトガの第一印象は、お箏とよく似ていることと、弦が多いこと。
お箏と違うのは、演奏台ではなく、演奏者の膝の上で演奏すること。

そのせいか、お箏よりもずっと身近に感じました。
その音色はアジアの風情漂う優しいものでした。
まるでモンゴルの草原、吹き渡る風が思い起こされるようでした。
見た目はお箏なのに、音楽は当然ですが日本とは全く異なり、完全にモンゴルのそれでした。

ヤトガ演奏で一番心に残ったのは、中西さんが「命きらめく草原」と訳した曲。
モンゴル語の曲名の直訳は、「真珠をちりばめたような草原」。
ここでの真珠は、羊のことだそうです。
羊を真珠にたとえるモンゴルのお国柄、さらに、それを「命きらめく」と訳す中西先生の感性に惚れ惚れしました。

最後は日本の「ふるさと」を中西先生がアレンジしたモンゴル版ふるさとで締めくくられました。
だんだん暑くなってきた5月、素敵な一時間半を過ごさせてもらいました。
私は以前から秋篠窯のことは知っていて、秋篠寺を訪れた時に近くまで行ったことはありましたが、実際に窯や作品を見たことがありませんでした。

たまたま『奈良市民だより』に掲載されていたこの授業の題名と内容を目にし、元々、陶芸と陶器に興味があったので、磁気染付作家である今西方哉先生直々による講座であることは、とても興味深く、秋篠窯について知るチャンスであると思い申し込みました。
4月の終わり、薫風かおるすがすがしい中、まずは、公民館の教室での講義でした。
秋篠の地にいた秋篠氏の存在と歴史的背景や、自然豊かな地であったことを知り、風景が目に浮かびました。
歴史と自然があるこの地で秋篠窯、秋篠焼は生まれたとのことでした。

秋篠窯の歴史、秋篠焼について、先生のアメリカでの経験、そして、先生のこれまでの人生と制作活動、作品への思いなどを、スライドの写真を見ながら聴きました。
先生の作品は私が知っている染付の概念をはるかに超え、現代的なアートのように感じました。
そのダイナミックでエネルギーにあふれた作品は、秋篠の歴史と自然から始まり、アメリカの自然のすごさを経験し感じたこと全てが源になり、それらが融合して生まれるそうです。

そして、秋篠の歴史と自然、先生の作品への思いなどふまえた上で、秋篠窯を訪れました。
そこは、西大寺周辺の喧騒からは程遠く、自然豊かで時が止まったようなおだやかな空間でした。

普段は入れない敷地の中の窯を近くで見学し、遠くから見えていた煙突は、はっきり煉瓦の色をとらえることができました。
展示室に行き、先程スライドで見ていた写真の作品を間近で見てみると、その繊細な陶器の質感とデザインの緻密さに改めて感動しました。

先生は、人間にとって自然は限りなく大切だと思って制作されているそうで、デザインには意味があり、タイトルも含めて自己表現であるとのことでした。
毎日が新しい発想と転換で、完成度の高い作品作りのため、前をむいて続けていくという先生の作品の奥深さと生き方・考え方に、感銘を受けた一日でした。

奈良駅から車で20分ほどの「田原(たわら)」呼ばれるところ。
奈良市内ですが、ちょっと小旅行に来たような、そんな気分になれる茶畑の中に「ギャラリー・ファブリル」はあります。

今回はギャラリーを主宰されている安達泉さんから、ご自身のお仕事のこと、田原での生活のことなど、いろいろな体験談を交えてお話いただきました。

まずはギャラリーで、作品ひとつひとつを手に取りながら見学の時間です。
“ギャラリー”と聞くとちょっと身構えてしまうのですが、「とにかく手にとって見てくださいね」と優しく話しかけてくださる安達さんの声にスーッ緊張も解けました。
興味深い形の木の椅子に腰掛けてみたり、素敵な陶芸作品を手に何を盛りつけようかしらと考えたりしながら、思い思いに楽しみました。

ギャラリー見学の次は隣接するご自宅に移動して、お話の時間。
安達さんの飾らないお話ぶりと、何時間でも居たいようなホッとできる空間で、あっという間に時間が過ぎました。

もともとは大阪にお住まいで画廊にお勤めされていたそうですが、奈良に移り住んだ後ギャラリーを始められ、その後、料理教室を開かれたそうです。
画廊にお勤めだったことから、ギャラリーをなさることは自然に感じるのですが、なぜ料理教室をなさったのかいうことが、料理好きな私にとっては関心のあるところでした。
お話によると、ギャラリーをされる前からご自宅には来客も多く、手料理を振舞われることも多くあったとか。
そのお客様のなかで、ぜひとも料理を教えてほしいという声に応え、たった1人の生徒さんから料理教室を始められたそうです。

お昼は各自がお弁当を持参し、安達さんが「野みつ葉と卵のお味噌汁」を用意してくださいました。
そのお汁のおいしかったこと!
とても優しく、澄んだお味で、「ぜひともお料理を教えてください」とお願いされた方の気持ちが理解できました。
(実際、私もお料理教室の申し込みをしました!)

お話の中で特に印象的だったのは、ギャラリーにしてもお料理教室にしても、決して計画して始めたのではなく、その時のひらめきで始めることになったとのこと。
でも、それらができたのは、画廊時代に美しいものや美味しいものに触れる機会があったことと、それによって培われた知識や体験のおかげだということでした。

また、河瀬直美監督の『殯(もがり)の森』の食事スタッフとして活躍されたお話はとても面白く、撮影期間の45日間、毎日スタッフのごはんを作り続けられたこと。
そして、きちんと作った食事は誰の心をも和ませること、美味しいものは人を幸せにするとの思いは、大いに賛同できるところでした。
この映画はカンヌでグランプリを受賞しており、安達さんも監督と同行されたということで、その時に撮影された秘蔵のお写真まで見せていただきました。

今回の授業は、安達さんの日常から非日常まで、素敵な暮らしぶりを拝見・拝聴させていただいた有意義な一日でした。
気さくに楽しく話してくださった安達さんと、素敵な企画をしてくださった、ひとまち大学のスタッフの方にも感謝申し上げます。
本当にありがとうございました。