香盛りの 香りに馳せる コスモス寺
2013.07.27 | 授業 | by Staff
“よったか”です。
今年度の広報課スタッフは、いつも現場にいます。
今日は7月27日(土)。
授業「お寺で体感、植物セラピー ~般若寺を包む四季の草花物語~」の担当として、般若寺にやってきました。
今回の教室・般若寺は、
奈良きたまち旧京街道沿いにある、コスモス寺として有名なところです。
先生は、般若寺副住職の工藤顕任さんです。
元プロボクサーという意外な経歴をもつ工藤さん。
植物セラピーとは。コスモス寺と言われるようになったのはなぜか。
いったいどんな話が聞けるんでしょうか。
般若寺に到着すると、すごい音量の蝉しぐれ。
緑に囲まれた涼しい境内ですが、蝉の声が真夏であることを教えてくれます。
ん!
ない!
なんと、事前に打合せをして用意は完璧だったはずなのに、
授業後半に使う液晶プロジェクターを積んでいなかったのです。
暑いのに流れるのは、冷や汗。
すぐにひとまち事務局に取りに帰ります。
般若寺は、国宝である楼門が街道沿いに立ち、
十三重石塔が重要文化財としてそびえる由緒あるお寺です。
ご本尊は文殊菩薩。
「創建当初は今の何倍も立派な伽藍が広がっていたんです」と、工藤さん。
場所は奈良の北の端。それも街道沿い。
南都焼き討ちでは真っ先に標的にされたとのこと。
かつての姿に思いを馳せます。
境内は非常に蚊が多く、
10秒もじっとしていられません。
お寺で殺生はいけないと思い
「蚊を退治してもいいですか・・・」と聞く私。
工藤さんはにっこりと頷きました。
立派な本堂西側に並べられた机には、
今日の前半のメインである「香盛り」の用意がされています。
「香盛り」って何?と思われた方はコチラ、
バックナンバーをお読みください。
「『香盛り』にハマるっ!?」
https://nhmu.jp/blog/info/4508
工藤さんのお話から、いよいよ授業スタート。
みなさん、工藤さんの優しい表情に吸い込まれます。
ここからの授業の内容は、授業レポートも併せてご覧ください★
「般若寺をはじめて、もう一度知る」
http://nhmu.jp/report/15391
さっそく、香盛りから授業は進みます。
香盛りは、なかなか説明通りに簡単に行くものでもないようです。
みなさん口々に
「心が乱れているのかなぁ」
「邪念が多すぎるのかな・・・」など、
心を落ち着かせようと何度もやり直します。
カタカナの「コ」の字に掘られた溝は初心者向けで、
やり方によっては「S」の字に型取ったりすることもあるとのこと。
工藤さんは修行中、何度も何度もこの香盛りをやり続けたとか。
学生のみなさんは、それをお土産にすることもあり、
納得いくまで作り続けます。
ようやく完成したのがコチラ。
名前の札を貼り、着火点を仏さまに向け、お供えします。
周囲に漂うお香の香り。
暑いなかにも、ピリッとした空気感が生まれます。
少しの休憩の後、
今度はコスモス寺の云われを伺うため、本堂の中へ。
パソコンと、遅れて届いたプロジェクターが設置され、
薄暗い中でお話が始まります。
創建当初は広大な伽藍であったこと。
資料が喪失していることもあり、まだまだ分からないこともあるとのこと。
廃寺寸前だったところを、叡尊が復興されたこと。
平安時代には平家の焼き打ちに遭ったこと。
そして、現代。
現住職が育った環境も、荒れ果てた状態でした。
そんななか、住職の発案で境内にコスモスを植えることに。
コスモスを咲かせているうちに
山口百恵の「秋桜」という曲が発売され、
世間ではコスモスの花が流行しました。
当時、全国でもコスモスの名所というものがなく、
般若寺はコスモスが咲くお寺として
「コスモス寺」と呼ばれるようになりました。
その後、住職が患った大きな病気に家族全員で立ち向かったことなど
いろいろなお話が進みます。
今は境内にいっぱいに咲き誇るコスモスは
勝手に咲いているのではなく、
一つひとつの手作業と重機をもって
家族の力で咲かせているとのこと。
コスモス寺の裏側を見た学生のみなさんたちは
話に心を打たれます。
学生のみなさんたちからは
「コスモスを育てるのが、こんなに重労働だとは思いませんでした。」
「香盛りを体験して、心が落ち着きました。」
「ただ、線香をあげるのではなく、香盛りすることで、仏さまと対話しているようでした。」
などの感想をいただきました。
最後に工藤さんより
「コスモスが有名になり、花のお寺として知られるようになったのは嬉しいですが、ここは、お寺。やはり仏さまに手を合わせてほしい。」
「奈良の魅力は、ここにしかない空気。奈良にはたくさんの魅力的なお寺がある。いろいろなところに訪れて、好きになってほしい」
と、お言葉をいただきました。
香盛りの火はすっかり燃えつき、灰になっていました。
みなさん、大事そうに袋に入れ、持って帰られます。
そこに、工藤さんからサプライズが。
国宝楼門・文殊菩薩・十三重石寶塔の描かれた散華を、学生のみなさんに
プレゼントしていただきました。
お心遣いに本当に感謝します。
奈良で生まれ、奈良で育ち、奈良を愛する工藤さん。
お人柄が、お寺に表れているようでした。
(よったか)